形状変化による自然河川における乱流特性の実験的研究

   日本では人口の約50%、資産の約70%が川によって形成された平野部に集中しています。日本人と河川は生活の様々な面で深く結びついているといえます。一方で、結びつきが深いからこそ大きな問題が引き起こされています。たとえば、人にとっては意味のある川の改変が、川に生息する生物を脅かす事態も生まれています。その一つが洪水対策です。安全な川とするために人手が加えられたことで、変化に富んでいた川の地形が一変し、どこもかしこも同じ様な環境となってしまうことがあります。それぞれの環境ごとに住み分けていた生物たちにとってこれは大きな痛手です。今後人と川とが関わっていく上で、川の生物たちがよりよく生息、生育できるための環境を確保する努力が必要です。川の持つ複雑かつ微妙な形の変化が生物の生息に重要な役割を果たしていることから、河川形状と局所的な流れの関係を明らかにする研究は今後の河川整備に大きく貢献することでしょう。

主な河川形態

上流部 
 山間部に降った雨が土砂を削り取り下流部に運ぶ。速い流速が土や石を押し流してしまうので、河床は巨大な岩に覆われる。
 
中流部 
 谷から平地に出た川は、急に勾配が緩くなり川幅が広がるので流速が遅くなる。そのため上流から運ばれた土砂が堆積して扇状地をつくる。
 
下流部 
 流速はさらに緩くなり水量も豊富になる。下流の勾配が緩いところでは潮の干満の影響を受ける。
 

瀬や淵の研究
 自然河川の水の動きに着目すると、川の上流部から中・下流部にかけて、瀬や淵などの共通するパターンを見いだすことができます。また、その地形が規則性を持って誘導している水の流れや土砂の移動形態の動的パターンも存在します。この自然河川の構造と働きを見て、治水面と生態学的な観点から、それを自然に近く再現する河川整備が求められています。特に、人間が川づくりの手助けをし、自然が仕上げをする「多自然型川づくり」が有効だと言われています。「多自然型川づくり」には、川が持っている浸食・運搬・堆積作用を理解し、流れの内部構造を理解する必要がありますが、本研究では瀬や淵をモデル化した流路を設け、自然河川の流れの構造の解明を目的とした様々な測定を行っています。

測定装置(可変勾配水路)

 水路床に緩い勾配のスロープを設けることにより、自然河川に見られる瀬と淵の一部をシミュレートしています。このスロープの前後で流速は2倍近くにも加速、減速されます。これは自然河川の瀬や淵が、たとえ短い区間であっても川の環境を大幅に変化させている事を示しています。生物たちはこうした瀬や淵による環境の変化をうまく利用して生活しています。
 

 ・2000年度の研究

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